相続に役立つ基礎知識

 

   本コーナーは相続対策を考える上で参考になる「基礎知識」について簡明な解説を心がけており、随時、項目内容の改訂を行っています。直近改定: 2023年8月4日→国税庁FP:相続税のあらまし

 

 

    項 目 名 : 印は関連資料

 1. 相続手続きのスケジュール
     ◎国税庁HP: 相続税の申告
 2. 相続税の課税対象   
     ◎相続税の申告要否検討表
     ◎国税庁HP: 相続税の速算表

 3. 相続人と相続分
 
4. 相続放棄と限定承認
 
5. 遺言
     ◎遺言の方式
     ◎法務省HP: 自筆証書遺言書保管制度

 6. 遺産分割協議         
     ◎遺産分割協議書のサンプル
 7. 相続財産の評価       
     ◎令和4年分路線価
     ◎ 国税庁HP: 財産評価基本通達

 8. 贈与税制               
     ◎相続税法
     ◎国税庁HP: 贈与税率

 9. 各種の非課税措置
10. 納税対策
11. 遺留分
12. 不動産に対する相続税
 
    ◎国税庁HP: 小規模宅地等の評価減の特例
13. 生命保険金               
  
    ◎国税庁HP: 生命保険金
14. 葬式費用と香典
15. 法定相続情報証明及び自筆証書遺言書保管制度
 
     ◎法務省HP
16. 成年後見制度
17. 家族信託制度
18. 遺言信託と遺言代用信託
19. 相続時の預貯金の払い戻し
20. 配偶者居住権
21. お墓等の祭祀財産
22. 相続不動産の登記義務化
 
     ◎法務局HP: 相続登記制度
23. 相続土地国庫帰属制度   
      ◎法務省HP: 相続土地国庫帰属制度

1.相続の開始

被相続人の死亡
2.相続開始から7日以内死亡届 →市町村役場
3.相続開始から3月以内

相続放棄または限定承認 →家庭裁判所に申述
(3ヶ月以内に何の手続きもしないと単純承認したものとみなされる)

遺産分割協議の開始

4.相続開始から4月以内

準確定申告 (被相続人の死亡日までの所得を申告) → 次の場合は申告不要:

①亡くなった方が給与所得者の場合、②亡くなった方が年金受給者で受給額が400万円以下で、他の所得が20万円以下の場合、③相続人が相続放棄をした場合。

5.相続開始から10か月以内

相続税の申告と納付 (原則として現金一括納税)→被相続人死亡時の住所地
の税務署に申告。

 納税期限を過ぎると、延滞税や無申告加算税が追徴されます。

6.更正の請求

①計算誤り等で税額を多く申告した場合、相続税の申告期限から5年以内であれば、払いすぎた相続税を取り戻す更正の請求ができます。
②相続分の異動等の後発的理由により、申告した税額が多すぎることとなった場合、その事由が生じた日から2か月または4か月以内に更正の請求をすることができます。

③上記と同じ事由で前に申告した税金が少なすぎることになったときは、修正申告書を提出します。

2. 相続税の課税対象

   相続税は一定額を超える財産を残した場合に課税されます。相続財産が基礎控除額(非課税枠)の枠内に収まれば課税されず、基礎控除額を超える部分についてだけ課税されます。

   相続税の申告が必要と思われる人には、税務署から「相続税の申告要否検討表」 が送られてきますので、相続財産を計算することによって相続税がかかるかどうか判断することができます。

  相続財産取得時に日本国内に住所を有する個人については、日本国内の財産だけでなく国外にある財産も相続税の課税対象となります。

   相続税の課税対象者はこれまで死亡者人口の約4%でしたが、税制改正により基礎控除額が4割減ったこともあり、平成28年に亡くなった約131万人のうち、課税対象者は8.1%(前年比2.8%増)になりました。

    相続税の基礎控除額 (非課税枠)

 平成26年12月31日以前:
 5,000万円+1,000万円×法定相続人の数

 平成27年  1月  1日以降:
 3,000万円+  600万円×法定相続人の数

3. 相続人と相続分

   誰が相続財産を引継ぐ権利のある者で(法定相続人)、どのような割合で財産を引き継ぐのか(法定相続分)については民法で定められています。法定相続分は、必ず従わなくてはならないという性質のものではなく、一応の目安となるものです。

  我が国の相続制度は「遺言による相続」と「法定相続」の二本立てになっており、遺言があれば法定相続に優先します。遺言がある場合は相続財産は遺言どおりの分割となり(指定分割)、遺言がない場合は原則的に法定相続分に従って分割されます(法定分割)。
   因みに、相続人全員の合意があれば、遺言の内容と異なる分割をすることができます(協議分割)

  配偶者は常に法定相続人になります。血縁者は、子、親・祖父母、兄弟姉妹の優先順位で法定相続人になります(子がいる場合、親は法定相続人になれません)。
  子には養子、非嫡出子、胎児を含み、嫡出子と非嫡出子※の間に優先順位はなく相続分も同一です。相続前に子が死亡していれば、孫が代襲相続します。相続放棄をした場合には、代襲相続はできません。同順位の相続人の間では法定相続分を均等に分けます。
   配偶者と他の法定相続人が共同で相続する場合の法定相続分は次のとおりです。

 

相続順位

法定相続人

法定相続分
第1順位

配偶者と直系卑属(実の子)

配偶者   1/2,
  子         1/2
第2順位

配偶者と直系尊属
(父母・祖父母)

配偶者    2/3, 
 直系尊属 1/3
第3順位配偶者と兄弟姉妹配偶者    3/4, 
 兄弟姉妹 1/4

※  民法改正により、平成25年9月1日以後の相続については、嫡出子と非嫡出子の相続分が同一になりました。

4. 相続放棄と限定承認

    相続財産には金融資産・不動産等のプラスの財産だけでなく、被相続人の債務も含まれます。債務には他人の借金の保証債務も含まれます。
    民法では被相続人の債務継承に関連して次の3つの選択肢について規定しています。

① 単純承認:全ての財産と債務を引き継ぐ。

② 相続放棄:全ての財産と債務を引き継がない。

③ 限定承認:相続財産の範囲内で債務を引き継ぐ。債務が相続財産を超過しても、相続人は自己の固有財産から弁済する必要はありません。

  相続の開始から3か月以内に相続放棄か限定承認をしない場合、単純承認をしたものとみなされるので、財産や債務の全容把握は急ぐ必要があります。相続放棄をしない場合、被相続人の債務を引き継ぐことになります。一度した承認や放棄は取り消しできません。

  また、相続放棄は単独で行なえますが、限定承認の場合は相続放棄を選択した者を除く全員の合意が必要です。相続放棄は、相続開始前には行うことができません。

5. 遺言 (遺贈)

   相続財産については、遺言があれば遺言内容に従って承継されます。
  遺言による財産の移転のことを遺贈といいますが、遺言は遺産相続についての被相続人の意思表示であるので、遺言どおりに遺産が分割されるよう法律でこれを保護しています(民法第902条)。そして、遺言によって特定の者に相続させる旨指定された個別の財産については、遺産分割協議を経ることなく被相続人が死亡した時点でその者に所有権が帰属します。

  遺言がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、法定相続分を目安に分割します。他方で、相続人全員が合意すれば遺言と異なる遺産分割をすることもできます。なお、法定相続人以外の者に財産を遺すには遺言が必須です。

   遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言及び秘密証書遺言の3つの形式があります。
これまで自筆証書遺言は全て自書でなければならないとされていましたが、2019年1月13日から財産目録についてはパソコン入力がOKとなりました。また2020年7月10日から自筆証書遺言の法務局での保管と裁判所の検認手続きの免除」という新しい手続きが実施されています。
 

6. 遺産分割協議書

  遺言がない場合、相続人全員が遺産分割について協議し、遺産目録を作成して誰がどの財産を取得するのか内訳を明記した遺産分割協議書を作成する必要があります。遺産分割協議が整うまで、相続財産は相続人全員の共有という位置にあります。

  分割協議に際しては法定相続分が目安になりますが、相続人全員が合意すれば分け方は自由で遺言と異なる内容の遺産分割をすることもできます。

   遺産分割協議書は、相続税申告の際の添付書類として必要となるほか、相続財産の移転登記や銀行預金の解約・名義変更の際にも必要となります。因みに、故人(被相続人)の銀行口座は銀行が死亡を知った時点で凍結され、預金を引き出すためには遺産分割協議書や相続人全員の印鑑証明の提出が必要になります。なお、2019年7月1日からは遺産分割協議終了前でも相続人は預貯金残高の1/3の範囲内で自らの法定相続分(1つの金融機関につき150万円が上限)について払戻しが受けられるようになります。

遺産分割協議書の定型の書式はありません。相続人が一堂に会さなくても作成できます。

   分割協議が調わなければ、家庭裁判所の調停または審判により分割することもできますが、とりあえず法定相続分の納税をすることにより、申告期限後に遺産分割協議を延ばすこともできます。

7. 相続財産の評価

  相続税法は相続財産の評価について原則として「時価」によるとしていますが、国税庁の「財産評価基本通達」などで財産の種別によって下記のように特別な評価方法を採用しています。そのため、財産によっては時価を下回ることがあります。この評価方法の違いを利用して、相続税の負担を少なくすることもできます。

 財産種別

相続税の評価方法

  宅地 - 市街地
  

路線価 ※1.で評価 (地価公示価格※2.の約80%程度)→

不整形地は整形地に比べ相続税評価が低くなります

  自宅

固定資産税評価額で評価 (地価公示価格の70%程度)

  貸家

固定資産税評価額×70%程度

※3. タワーマンションの固定資産税の見直し

  生命保険金

法定相続人1人につき500万円の非課税あり

  死亡退職金

法定相続人1人につき500万円の非課税あり

  上場株式

過去3か月の取引相場の月平均終値の中で最も低い株価

  現金

手元の残高

  預貯金

預入残高+税引き後の解約利子

  金・プラチナ   

相続発生日の取引価格

  宝石・美術品

時価

  ゴルフ会員権

取引価格の70%+預託金

※1. 路線価:宅地に面する道路に付けられた相続税評価のための価格。毎年7月1日に国税庁が1月1日時点の評価価格を公表。  令和2年分路線価

※2. 地価公示価格: 一般の土地取引の取引価格の目安となっている。毎年3月下旬に官報で1月1日を基準日とした価格を公示。

※3. タワーマンションの固定資産税の見直し: タワーマンションの固定資産税は、中央階を基準として高層階の所有者は税負担が増え、低層階の所有者は税負担が減ることになりました。 (2018年1月1日施行)
  4.  上場株式、投資信託の相続については、相続人が証券会社に取引口座を開設している必要があります。

8. 贈与税制

   贈与税は、無償で現金や不動産等の財産を譲り受けた人に課税される税金ですが、相続税とは補完関係にあります。もし生前の贈与に課税されないとしたら、相続税をのがれるために生前に財産を贈与してしまい、相続税制が骨抜きにされてしまうからです。相続税法は相続税と贈与税の二つの税金について規定しています。  相続税法(平成28年度版)

  相続税と贈与税はいずれも超過累進税率となっていますが、贈与税の方が税負担が重くなっていることから、節税対策が生前贈与の核心となります。贈与税の課税制度には①「暦年課税制度」と ②「相続時精算課税制度」の二つがあります。

  ①「暦年課税」は、1月1日から12月末日までの間に贈与を受けた財産額から110万円の基礎控除額 (非課税枠) を引いた額に対して課税されます。「暦年課税」の場合、基礎控除額により相続財産が減る節税効果がありますが、贈与税(「暦年課税」)の税率は相続税よりはるかに高い超過累進税率となっています。
  「暦年課税」の場合、直系尊属からの贈与については、一般の贈与よりも有利な「特例税率」が適用されます。

 ②「相続時精算課税」は、60才以上の父母または祖父母が20歳以上の子か孫に住宅取得資金やその他の財産を生前贈与する際に利用できます。2,500万円(贈与者1名当)の非課税枠上限に達するまで何回でも贈与することができ、非課税枠を超える部分について一律20%の税率で課税されます。但し、一度「相続時精算課税制度」を選択すると、その後は同じ贈与者からの贈与について「暦年課税」は適用できません。
   
相続時精算課税制度は、2,500万円までの贈与に対して贈与時には課税せずに、相続時まで繰り延べるというものであるため、生前贈与による相続税軽減効果はありませんが、生前に多額の資産を子供世代に前渡しすることができます。なお、相続財産と合算する贈与税の価額は、贈与時の時価が相続税評価額とされていることが注目点といえます。

1.「配偶者の税額軽減措置」
    配偶者については、婚姻期間に関係なく、相続財産が配偶者の法定相続分と1億6,000万円の何れか大きい額まで相続税が非課税になるという特典があります。遺産分割協議が成立しない場合、この特例は適用されません。

2.「婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与に関する優遇措置」
   婚姻期間20年以上の配偶者が居住用不動産の贈与を受けた
場合、遺産分割の対象となる遺産の先渡しとしては取り扱われなくなり、基礎控除110万円の他に最高2,000万円まで贈与税が控除されます(2019年7月1日施行)。但し、相続の場合に非課税となる不動産取得税については課税され、登録免許税も相続の場合に比べて割高となります。

3. 「配偶者居住権」 (2020年4月1日~)
   相続後も配偶者が自宅に住み続けながら生活に必要な金融資産も相続できるようにするとの配慮から、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物に終身または一定期間居住を認める法的権利(配偶者居住権)が新設されます。配偶者居住権は、遺産分割または遺言によって取得させることができます。

4.「小規模宅地等の評価減の特例」
   被相続人の宅地を配偶者や子供が相続する場合、自己使用宅地については330㎡、会社や工場等の家業の店舗用地については400㎡をそれぞれ上限として相続税評価額が8割減になります(但し、相続開始前3年以内に事業の用に供されていた宅地等は原則除外される)。子供の場合は、被相続人と同居しているか、持ち家がないという資格要件があります。遺産分割協議が成立しない場合、この特例は適用されません。

5.「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税の非課税」(2023年12月迄)
  父母・祖父母などの直系尊属から新築等のための資金贈与を受けた場合、贈与税が上限1,000万円までが非課税となります。
対象となる住宅の床面積は40㎡以上240㎡以下で、贈与年の受贈者の所得金額が2,000万円以下という利用要件がある。

6.「住宅取得等資金贈与に係る相続時精算課税制度の特例」(2023年12月迄)
  前記の「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税の非課税」の非課税枠を超えた金額については、「相続時精算課税制度」の2,500万円の特別控除枠を併用して控除することができます。

7.「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」(2023年3月31日まで)
  直系尊属(祖父母・両親)から30歳未満(在学中であれば40歳まで)の子や孫に対する教育資金として、1500万円(受贈者1人当)までの
贈与が非課税になる。贈与財産は信託銀行等が管理し必要の都度引き出します。但し、受贈者が30才に達した時点で残額に贈与税が課されます。 祖父母が死亡した場合、受贈者が23歳以上であれば残額に相続税(孫の場合は2割加算)がかかります。※ 受贈者の年間所得が1000万円以下という利用要件あり。 

8. 「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」(2023年3月31日まで)
  直系尊属(祖父母・両親)から20歳以上(2022年4月から18歳以上)50歳未満の子や孫に対し、結婚費用や出産費用、子供の育児費用として、1000万円(受贈者一人当)までの贈与が非課税になる。未使用残額については、①受贈者が50歳に達した場合は贈与税が、②贈与者が死亡した場合は相続税(孫の場合は2割加算)が各々課税される。この特例を受けようとする場合は、非課税申告書を金融機関を経由して税務署長に提出する必要があります。  
※ 受贈者の年間所得が1000万円以下という利用要件あり。

9.生命保険の非課税枠
  被相続人が契約者・被保険者になっている生命保険の死亡保険金については、法定相続人1人当たり500万円の非課税枠があり、有効な節税対策として利用できます。
  また、死亡保険金は法定相続分とは別扱いの受取人固有の財産となり、遺産分割協議の対象にはなりません。

10. 障害者の税額控除
   相続人が85才未満の障害者の場合、その障害者が85才になるまでの年数1年につき10万円(特別障害者は20万円) の金額が相続税の額から控除されます。

10.「 空き家の発生を抑制するための特例措置」(2023年12月31日まで)
   空き家の発生を抑制するための特例措置として、相続した空き家を一定の条件で売却した場合、譲渡所得について3000万円の特別控除が認められます。    

10. 納税対策

   相続税は現金での一括納付が原則であるため、納税資金の確保が大きな問題となってきます。預貯金や上場株式のように現金化しやすい資産がそれなりにあれば問題がありませんが、相続財産の大半が換金化が容易でない不動産の場合、納税資金確保のための対策が必要となってきます。因みに、相続税の納付は相続人全員の連帯責任となっていますので、相続税を納付できない相続人がいる場合、その分を他の相続人が負担しなければならならないという点に留意する必要があります。

 また、節税対策のために各種の資産運用に走る結果、かえって損失やリスクを負うことになりかねません。 独立系のファイナンシャル・プランナーは、中立・公正な立場で顧客の資産の維持・管理についてセカンド・オピニオンを述べることができます。

11. 遺留分

   兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」という相続財産の最低限の分け前が民法によって保障されています。遺留分は、配偶者・子・父母といつた遺族の生活保障に配慮して認められている制度です。

   そして、遺言で遺留分を侵害された相続人及びその承継者には遺留分をとり戻すための「遺留分侵害額請求権」が認められています。このため、遺留分を侵害された相続人が納得しない場合には争いが生じる可能性があるので、遺言書は遺留分を念頭に作成する必要があります。もっとも、遺留分は自ら放棄することもできるので、遺産分割協議で相続人全員の合意があれば、特定の相続人の遺留分を侵害する分割を行うことも可能です。

   遺留分減殺請求権は、相続の開始を知った日から1年間、また相続開始の日から10年間の間に権利を行使しないと時効により消滅します。

 [法定相続分と遺留分の割合]

法定相続人の構成

法定相続分

遺留分

配偶者と子

配偶者 1/2
子 1/2

配偶者 1/4
子 1/4

配偶者のみ

遺産全額1/2

子のみ

遺産全額1/2

配偶者と父母

配偶者 2/3
父母 1/3
配偶者 1/3
父母 1/6

父母のみ

遺産全額1/3

配偶者と兄弟姉妹(子・孫・父母がいない場合) 

注: 兄弟姉妹には遺留分が認められていないので、
配偶者のみに相続させたい場合は、その旨を遺言に
明記することで解決します。

配偶者 3/4
兄弟姉妹 1/4
配偶者 1/2
兄弟姉妹なし

兄弟姉妹のみ

遺産全額なし

12. 不動産に対する相続税

1.自宅の相続税の評価額   
   不動産は相続財産の中でも大きな比重を占めます。この点、相続税の基礎控除額が4割引き下げられたこともあり、地価の高い都市部では親の所有する自宅の相続税評価額がどの位になるのかについて関心が高まざるを得ません。

  自宅は、家屋と土地を別々に評価しますが、評価額の算出方法が各々異なります。

①家屋の場合、固定資産税評価額(納税通知書に記載)が相続税評価額になります。固定資産税評価額は、公示価格の約7割程度。

②市街地の宅地の場合、国税庁が毎年7月に公表する路線価で相続税評価額を算出します。路線価は、公示価格の約8割程度。

  路線価とは、宅地に面する道路に付けられた相続税評価のための価格です。路線価方式では、路線価×宅地面積で宅地の評価額を算出します。例えば、路線価(1㎡当)が30万円、宅地面積100㎡の場合、評価額は30万円×100㎡=3,000万円となります。

③市街地以外の宅地の場合、倍率方式=固定資産税評価額×評価倍率(国税庁ホームページに掲載)で計算。

 2.借地権の相続税評価額 :
   借地権も相続税の課税対象となります。評価額=自用地の評価額×借地権割合(国税庁ホームページに掲載) 。

 3.自宅の相続税の減額特例:「小規模宅地等の評価減の特例」
   被相続人の所有していた宅地については、遺族の生活基盤である自宅の確保や事業継続を図るための優遇措置として、次のような相続税の減額特例があります。更地の場合は、この減額特例は適用されません。

     [小規模宅地等の評価減の特例]

種別相続人上限面積減額割合
①居住用宅地 :
自宅の土地
配偶者
同居または同一生計の相続人
持ち家なしの別居の相続人
330㎡80%減

②事業用宅地 :
会社・工場の土地

 

事業を承継する相続人400㎡80%減
③貸付用宅地 :
アパート・駐車場
事業を承継する相続人200㎡50%減

注:①居住用宅地と②事業用宅地を併用する場合、730㎡を上限として80%が減額。
    ②相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等については原則として
特例は
        適用されない。  

  自らが契約者となって保険料を負担した生命保険の被保険者が死亡した場合に、保険金受取人に指名された相続人が受けとる生命保険金は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となりますが、法定相続人一人当り500万円の非課税枠があります。なお、相続を放棄した者でも生命保険金を取得できますが、その者については非課税枠の適用はありません。

  因みに、死亡保険金は、保険契約に基づいて発生する受取人の固有財産であって、被相続人の元々の財産には当たらないため、遺産分割協議の対象にはならないとされています(昭和40年2月20日最高裁判決)。

   生命保険金は、非課税枠を享受しながら特定の相続人に確実に現金を遺すことができるため、納税資金対策として有効な選択枝といえます。また、保険法(第44条)により、遺言による保険金受取人の変更が認められています。
保険の種類については、一生涯保障が続く終身保険が望ましいようです。

14. 葬式費用と香典 (債務控除の対象)

   葬式費用を誰が負担するかについて法律上の定めはありませんが、葬式費用は相続財産の価額から債務控除することができます(相続税法第13条第1項)。

  因みに、香典には亡くなった人の供養の他に葬儀という突然の出費に対する相互扶助という意味があるので、葬式費用は第一次的には香典から充当され、それでも足りない場合は相続財産の中から支払われることになります。香典収入を葬式費用に充当した場合でも、葬式費用として債務控除の対象になります。

   読経料・戒名代などのお布施は葬式費用として債務控除の対象になりますが、香典返戻費用は葬式費用として認められていません。また、墓地は相続税の非課税財産であるため、債務控除の対象にはなりません。
   なお、相続財産の価額から控除できる債務は、原則として相続開始時に存在する被相続人の債務に限定されます。

15. 法定相続情報証明制度と自筆証書遺言書保管制度

 ① 亡くなった人の預貯金口座の解約や不動産の相続登記に必要になってくるのが除籍謄本や戸籍謄本等の戸籍関係書類です。相続手続きのたびにこれらの書類を出し直す負担から相続人を軽減するために作られたのが「法定相続情報証明制度」で、相続人が戸除籍謄本等を確認しながら作成した相続関係を一覧にした図(法定相続情報一覧図)を法務局に提出すると登記官がその一覧図に認証文を付した写しを交付してくれます。その一覧図の写しを利用することで戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなります。必要な部数を無料で交付してくれるので、同時並行で各種手続きも可能となります。

   ②また、自筆証書遺言書については家庭裁判所の検認済みの原本が必要ですが、その代わりに法務局に自筆証書遺言書の保管してもらい相続時に「遺言書情報証明書」の交付を受けて各種手続きに使用できる「自筆証書遺言書保管制度」があります。但し、「遺言書情報証明書」の交付申請をする際には添付書類として上記①の「法定相続情報一覧図」が必要となります。なお、家庭裁判所の検認手続きはこれまでどおり利用できます。 

 

16. 成年後見制度 (認知症による資産凍結の回避策)

   成年後見制度は認知症や知的障害、精神障害等で判断能力が不十分な人を支援する制度で、本人に代わって成年後見人が法律行為(遺産分割協議や相続手続)や財産管理、介護施設の入所契約等を行います。
  成年後見人は家庭裁判所が職権で選任しますが、親族が申請しても司法書士や弁護士が選ばれるケースが多いのが現状です。また、これら専門職に対する報酬は月額2万円が目安となっているほか、一度選任されると利用中断ができず被後見人の死亡まで報酬を払い続ける必要があります。 このような状況の下で成年後見制度の利用状況は低調で、2021年現在約24万人です。因みに、認知症高齢者は2020年時点で約600万人。

  なお、 成年後見制度は専ら生前の財産管理を目的としたものであるので、相続については遺言書作成など別途の対策が必要になります。また、成年後見制度は身体障害者や介護が必要な人であっても、判断能力が衰えていない場合は利用できません。 

 注: 成年後見制度の見直しについて
 
 法務省は成年後見制度見直しのための骨子次のような民法改正案を2026年度までに国会提出する方針である。
〇本人が死亡するまで利用中断できない現行制度を必要な期間や事項に絞って柔軟に使用できるようにする 〇家庭裁判所が指定する後見人の交代を親族などの意向も踏まえて柔軟に対応する。(2022年8月12日付共同通信)

17. 家族信託制度 (認知症による資産凍結の回避策)

   認知症になると、家族が代わって預金引出しを行うことも銀行がトラブルを避けるために原則できなくなります。また、金融機関が取引に応じてくれない結果、凍結状態のまま費消されなかった認知症高齢者の財産は相続税の課税対象となる一方で、親の介護・生活費のために子供が支出した金銭は記録を残しておかないと税制上の減免措置を受けられなくなるという落とし穴があります。

   家族信託制度は認知症になった場合だけでなく、健常者や身体障害者であっても財産管理を任せることができ、更に遺言の機能も組み入れることにより本人死亡後の財産の承継者を指定できるなど利便性の高い制度です。但し、全ての遺産を信託契約で網羅することはできないので、家族信託でカバーされない相続財産については通常の相続手続きの下で処理されることになります。

   家族信託制度は、家族の構成員(家族以外の個人も可)に財産の管理・運用を任すことができる財産管理の手法ですが、信頼のおける家族関係の存在が前提となります。

18.遺言信託と遺言代用信託 

「遺言信託」は、自分の死亡により指定された受取人が信託財産から経済的利益を受けるという内容の信託を遺言により設定しておくものです(信託法第3条2号)。
   「遺言代用信託」は、自分の死亡により指定された受取人が信託財産から経済的利益を受けるという内容の信託契約を生前に締結しておくものです。家族信託もこれに該当。
   信託銀行が商品としている「遺言代用信託」は、信託銀行が公正証書遺言作成のサポートと保管を行い遺言執行者となる遺言執行業務ですが、信託銀行が預かる信託財産は金銭に限られます。

19. 預貯金の払い戻し制度の創設

    これまで遺産分割協議が終わるまで相続人単独で遺産に属する預貯金の払い戻しができないとされていましたが、家庭裁判所の判断を経ず受けられるようになりました。
   相続人が単独で払い戻しが受けられる金額は、(相続開始時の口座毎の預貯金債権額)× 1/3 ×法定相続分となります。但し、1金融機関について15万円まで。

(例) 相続人が長男と次男の二人で預金が600万円の場合、長男は100万円まで払戻し可。

20. 配偶者居住権

  配偶者居住権は、夫を亡くした妻が相続時に居住していた自宅に住み続ける権利だけを認め、建物の所有権は他の相続人(例えば子)が取得するという制度です。配偶者居住権の設定された建物はその分相続税が低く評価され、配偶者が死亡すれば建物所有者は配偶者居住権の抹消登記を申請することができます。
   配偶者居住権設立の趣旨は、配偶者が自宅を相続すると金融資産の取り分が少なくなり生活が困窮するのを防ぐことにあります。配偶者居住権の登記は、居住権を持つ妻と建物所有権を持つ相続人が共同で申請します。

 21. お墓などの祭祀財産

   お墓などの祭祀財産を管理する祭祀主宰者を決めておかないと親族間でトラブルになる可能性があります。祭祀主宰者は生前に口頭か書面で決めておくか遺言書で指定する方法があります。祭祀主宰者の資格に制限はなく、相続人でなくてもよい。

1. 祭祀財産とは系譜(家系図)、祭具(位牌、仏壇)、墳墓(墓地、墓石)の3種類。祭祀財産を管理する祭祀主宰者については、お墓の管理、お布施、寄付、法要費用等を負担することになることからそれ相応の財政的配慮も必要になってきます(祭祀財産は非課税)。

2. 祭祀主宰者の選定は民法(第897条1項、2項)で順番が規定されており、一番目は被相続人による指定、二番目は慣習に準拠、三番目は家庭裁判所の決定となっている。

3. 祭祀主宰者には承継した祭祀財産を自由に処分できる権限を有します。

22. 相続不動産の登記義務化(2024年4月1日から)

   2024年4月1日から相続により不動産の所有権を取得した場合、3年以内に不動産の名義変更が義務付けられることになり、罰則として10万円以下の過料が課されます。この背景には、これまで不動産登記が義務化されていなかったことから所有者不明の土地・空き家の増大が全国的な問題になっているという事情があります。
  なお、2023年12月31日迄、「空き家の発生を抑制するための特別措置」として、被相続人の居住不動産を取得した相続人が家屋または取り壊し後の土地を売却した場合、譲渡所得について3,000万円の特別控除が認められます。

23. 相続土地国庫帰属制度(2023年4月27日から施行)

  国土の22%にも及ぶといわれる所有者不明土地の発生を抑制するために、 相続した土地が利用・管理されないで放置されている社会的背景の下で、相続人が土地所有権を国に引き取ってもらうという制度が創設されました。
  国庫帰属申請をする土地は、法務大臣による審査と承認を受けると10年分の土地管理費相当額(土地一筆について20万円が基本)を納付することにより国が管理・処分することになります。